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国際エミー賞受賞−全国に紹介された藤本夫妻の暮らし

ing 2000年3月1日 No.65

 

 昨年暮れに国際エミー賞ドキュメント部門最優秀作品賞を受賞した『ふつうのままで−ある障害者夫婦の日常』(MBS・映像90)をご覧になった方も多いかと思います。この作品は、奈良市の団地で親子3人で暮らす藤本隆二・弘子さん夫妻の日常を淡々と映し出した秀作です。1時間足らずの映像に、藤本さん夫妻の人柄や地域の人々、ボランティアなどとの触れあいが実にうまく表現されています。

 私の夫が、藤本弘子さん(妻)を夜間中学で担任していることもあって、藤本さん夫妻とは何度か会うことがありました。先日(2月12日)には、私の主催する『ひと塾セミナー』にも夫妻に講師として来ていただき、その暮らしぶりの一端を話していただきました。まだビデオを見ていない方にも夫妻の生き方を知ってもらえたらとも思います。

 ビデオは、口で電動車椅子を操作する弘子さんが団地の中を走行するシーンから始まります。弘子さんは口以外が不自由で、自分で座ることも出来ない重度障害者ですが、口でパソコンを操作したり、電動車椅子を操作したりします。一人で買い物するシーンでは、買った商品を落としてしまい、他の買い物客に膝の上に載せてもらったりします。また親子連れに出会ったら子どもに年を聞いたりする日常的な会話の場面も登場します。こんな日常のさりげない接点が、夫妻と地域とのつながりになって行くのではないかと思います。

どこの地域でも障害者が住んでいるはずなのですが、積極的に町に出ない、出られない状態が当たり前になっているために、健常者の方もどのように障害者に接したらいいのかがわからなくなっているのだなぁと思います。そういう意味でも藤本さん夫妻が地域の中で本当に「ふつうのまま」生活していることは大変大きな意味を持っているのです。

 夫の隆二さんは自由な左手で電動車椅子を操査して、夜間中学(弘子さんとは別の学校)や電気店に出かけていきます。また、隆二さんが片手でおでんを作っている場面では「今、おでんが佳境に入っている」などという名文句に隆二さんのユーモラスな性格がうかがわれ、思わず笑ってしまいます。

 こんなほのぼのとした夫婦の生活ですが、時として夫婦げんかも起こります(藤本家の夫婦げんかはボランティアの間でも結構有名みたいです)。弘子さんが作ったカレー(弘子さんは料理の経験のあまりないボランティアの若者に、タマネギを切って、カレー粉をこう入れてと指示しながら味付けなどをしていってもらいます。一方的にボランティアが料理を作るわけではないのです。)の煮込み方が足りないと言う隆二さんに弘子さんは涙を流して抗議しますが、隆二さんは電動車椅子でブイッと外へ出かけてしまいます。実は健常者であれ障害者であれ夫婦げんかなどはどこの家でも日常的な風景なのだということに改めて気づかされます。

最後の場面で満開の桜の下を夫婦2台の電動車椅子にはさまれて正装した息子の隆弘君と3人が入学式を終えて家路に向かいます。見ている者みんなが本当にほのぼのとした気持ちになる場面です。この美しい桜をバックにさだまさしの『夢』というメロディーが流れますが、このBGM使用が縁となって弘子さんは長年の大贔屓のさだまさしさんに直接会い、サインをもらうことが実現しました。2月12日の奈良でのコンサートの楽屋での面会の後「ギャーーーーー」と叫びながら家に帰ったという弘子さんの話を聞き、それが『ひと塾セミナー』の帰りであったこともあり、私は「本当に良かった」と思いました。

 藤本家の生活は200人以上のボランティアによって支えられているわけですが、実は支えている側のボランティアが、藤本夫妻と接して、ホッとしている様子がよくわかります。料理をしたこともない青年が、自分の作ったカレーに「うまい」と舌づつみを打ったり、自立生活を支えている側が、実は自立していっているのだとも思います。

 効率優先、競争主義の健常者の社会ではほとんど忘れ去られたかに見える人と人との触れあいがこの夫婦を中心に地域の中に確実に広がっているのがわかります。

 藤本さんの近くにお住まいの方は、ぜひ一度、お家を訪ねてみてください。ビデオを見ておられない方はぜひ一度、ビデオを見てください。きっと、私たちの暮らしをふりかえることができるはずです。


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